関節可動域訓練に必須!TKAと正常膝の異なるキネマとは?インプラントによる差は?
TKA(人工膝関節全置換術)後の関節可動域獲得は必須です。
屈曲を目指して関節可動域訓練を行う際には、
TKA後の膝関節と正常の膝関節とキネマティクスは異なることを知っておかなければなりません!
変形性膝関節症に対する人工関節置換術は、
現在日本でも数多く行われ、
標準的な手術療法とされています。
術後は、荷重時の疼痛の軽減や、
変形の矯正などが得られ、QOL(Quolity Of Life:生活の質)の改善はもとより、
歩行をはじめとしたADL(Activity of Daily Living:日常生活活動動作)の改善が期待できます。
このようなADLの改善を叶えるためには、
関節可動域の改善が必須です。
一般的には、術後のリハビリテーションにおける関節可動域訓練にて改善を目指します。
これまで、TKA後の膝関節の屈曲は120°が一般的でありましたが、
インプラントの性能の改善などから、正座が可能となる症例を認めるなど、
より深屈曲が可能となってきています。
術後のリハビリテーションを担当する理学療法士には、
膝関節の可動域を改善される技術が必須であり、
そのための膝関節の知識を有していなければなりません。
しかしながら、TKA後の膝関節のキネマティクスは、
正常膝のキネマティクスとは異なるのですが、実際にどのように異なるかの知識を有している療法士は意外に少ないのです。
また、最近では多様なインプラントが使用されており、
それらの機種の特性も知っておく必要があります。
そこで今回は、TKA後の関節可動域訓練に必須の知識である、正常膝とTKA後の膝のキネマティクスの違いや、インプラントによる違いなどについて解説します。
Contents
正常膝のキネマティクス
正常膝における屈曲運動では、
骨のみならず、筋肉や靭帯の張力などが影響しあい、
複雑な運動を行います。
特に重要とされる運動は、
・滑りと転がり
・内旋と外旋
です。
“滑りと転がり”
“転がり”とは、
膝関節が伸展位から屈曲する際に、
屈曲初期に脛骨上を大腿骨が支点を変えずに転がる運動をすることです。
一方で、”滑り”とは、
大腿骨が転がり運動をおこなった後に、
前十字靭帯(ACL)の張力によって後方に引かれて脛骨上を大腿骨が滑る運動(roll back motion)をすることです。
“内旋と外旋”
脛骨の関節面の骨形態は、
内顆関節面はやや凹面を有しており、凹面にはまり込むように大腿骨の顆部が接しているため滑り運動により前後の可動性が少ないが、
外顆はやや凸面の形状をしているため内側関節面に対して可動性が高くなります。
この左右の非対称性によって、
膝関節屈曲運動におけるroll back motionの量に差があり、
内側に比べて外側の方が、脛骨上を大腿骨が後方へ移動するため、
見かけ上、膝屈曲運動に伴って脛骨の”内旋”運動が生じるのです。
一方で膝関節の伸展運動の際にはこれと反対の運動が生じるので、
伸展の最終域にて”外旋”運動が生じます。
これを「スクリューホームムーヴメント(Screw Home Movement)」と呼びます。
健常膝とTKA膝のキネマティクスの違いとは?
では一体、健常膝とTKA膝のキネマティクスの違いはどこに生じているのでしょうか!?
これは、玉城らによって行われた2D/3D レジストレー ション法を用いた人工膝関節術後の動態解析によって明らかにされています。
参考)膝関節のバイオメカニクス
健常膝とTKA膝の最も大きく異なるキネマティクスの違いは、
膝関節屈伸運動に伴う回旋量の差です。
正常膝関節では、膝屈曲90〜120°で内旋30に達すると言われていますが、
TKA膝では、10°前後であったということで、明らかに回旋量が少なかったようです。
ただし、これらは荷重下での計測であり、
単純な関節可動域訓練時の非荷重での運動と全てを同一として考えるにはやや注意が必要です。
また、インプラント間による差も考えなければなりません。
インプラント間による違いと、関節可動域改善の際のポイントは?
先に述べたように、
TKA後の膝関節は健常膝に比して膝関節屈曲に伴う回旋量が少ないという差があるそうです。
現在では、従来より用いられてきたPSタイプやCRタイプのみならず、
最近のインプラントではACLとPCLを温存するBCRタイプや、
それらの靭帯は切除するものの機械的に靭帯の機能を再現したBCSタイプ、
さらには内側の拘束性を高めたMedial Pivotタイプなどが開発されています。
これらのインプラントの知識に関しては、こちらを参照してください!
→人工膝関節全置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
→TKAのインプラント「BCR型」や「Medial Pivot型」とは?
→TKAのインプラント「BCS型」の特徴とは?
膝関節の屈曲運動におけるインプラント間の違いはあるのでしょうか?
基本的には、正常膝と同様のキネマティクスのイメージで良いでしょうが、
実際にはPSタイプのように比較的拘束性の低いインプラントの場合、
病前の筋緊張に依存しやすく、必ずしも回旋が生じなくても深屈曲が可能となる場合もあります。
一方で、内側の拘束性を高めたMedial Pivotタイプでは、
必ず外側の可動性を高め、屈曲に伴う脛骨の内旋が生じなければ深屈曲は困難な印象があります。
解剖学的に正常膝に近いBCRなどは、そのまま正常の運動をイメージするのが良いと思われます。
しかしながら、このようなインプラントの違いが生じる前に、
まず患者の防御性の収縮を抑制することや、術前より生じている筋緊張の不均衡を是正することが重要です。
余分な筋緊張が抑制され、あらゆる方向へ一定の可動性を引き出し、過剰な軟部組織の癒着などが生じない状態が維持できていれば、
関節の運動は意図的に操作せずとも、インプラントの特性に従った方向へ勝手に曲がっていくのです。
もちろんそのための触り方や肢の持ち方などに関しては熟練した技術が必要となってきます。
この記事を読んだ人はこちらも参考にして下さい!
→人工膝関節全置換術(TKA)後の膝関節屈曲制限の因子とは?
→TKA術後のリハビリテーション「膝関節伸展制限」の原因は?
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