人工膝関節の耐用年数とは?寿命がきたらどうするの?
人工膝関節全置換術(TKA)は、
変形性膝関節症に対する標準的な治療法として本邦でも広く実施されています。
ただし、人工物であるが故にいつかは寿命が来ることを知っておく必要があります。
人工膝関節全置換術(TKA)は、
その名の通り、変形性膝関節症などによって、
変性し磨耗した膝関節を人工物に置換する手術方法です。
主に除痛に効果があり、
歩行を始めとして、日常生活動作の再獲得が可能となります。
何よりも、再び歩くことができるということによって生活の質(QOL)が飛躍的に改善します。
人工膝関節置換術に関する情報はこちら
→変形性膝関節症の手術療法「TKA」とは?他にも手術の種類があるの?
→UKAってどんな手術?TKAとは違うの?そのメリットは?
しかしながら、手術であり、人工物であるが故のリスクなども知っておく必要があります。
その一つになるのが、人工膝関節自体の寿命です。
人工関節は、金属やセラミックで出来たコンポーネントと呼ばれる部分と、
その間の関節面にポリエチレンのインサートが存在します。
繰り返される膝関節運動によって人工物自体に磨耗が生じたり、
骨と人工関節面の間でLoosing(緩み)が生じることがあります。
では、実際に人工膝関節の耐用年数はどれくらいなのでしょうか!?
Contents
人工膝関節の耐用年数は何年くらい?
人工関節の耐用年数は、
年々機種自体の強度やデザインの最適化、手術技術の向上などによって飛躍的に改善しています。
ただし、それでも生体の膝ほどの強度はありません。
一般に人工膝関節の耐用年数は約20年と言われています。
実際に多くの医師はおおよそその程度の年数を答えることが多いでしょう。
そうとは言っても15年くらいだったり、20年以上は大丈夫などと意見が割れることもあります。
なぜ、一意に「〇〇年です!」と言えないのでしょうか!?
それは、人工関節の耐用年数を左右するには様々な要因が関与するからです。
人工膝関節の耐用年数に関与する因子とは?
人工関節の耐用年数を左右するにはいくつかの要因が関与します。
いくつも該当するものがある場合は、
10年と持たずに寿命を迎えることもあれば、
20年、30年と問題なく使用できる場合もあります。
一概にそれを正確に推し量ることは難しいと言わざるを得ないですが、
可能な限り回避するしかないでしょう。
以下にいくつかの要素を挙げましたが、
総じて人工関節に加わる機械的なストレスの増加が人工関節の寿命を短くすると言い換えても相違はありません。
活動量や運動量
まず、最も重要な要素として挙げられるのは、
その人自身の活動量や運動量です。
通常の日常生活を送るのであれば問題ないかもしれませんが、
・登山をしたい
・テニスがしたい
・マラソンをしたい
などと言った明らかに膝に衝撃の加わる運動を繰り返し行うことは、
人工関節の寿命を縮める要因になります。
インプラントの機種によっては、
破損する場合もあるので、スポーツなどを行う場合には医師などに相談する必要があります。
肥満
活動量や運動量と同様に、
肥満であること自体が、膝関節にかかる力学的な負荷を増大させます。
体重が50kgの人が歩くのと、
100kgの人が歩くのでは、
面に加わる圧縮力も、剪断力もはるかに体重が多い方が大きいのです。
ダイエットをして体重を減らすことはもちろんですが、
杖などを使用することで、直接膝に加わる重さを軽減することも可能です。
人工関節の機種や手術技術
正確に比較することは難しいかもしれませんが、
人工関節のインプラントも様々な機種があり、各々に運動学的な違いもあります。
加えて、医師の手術技術によって設置位置などによっても加わる力学的な負荷に違いが生じます。
人工関節のインプラントの種類はこちら
→全人工膝関節置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
身体的な特徴
肥満もその一つですが、
それ以外にも例えば歩容(歩き方)などによって同じ距離や歩数を歩く場合にも人工関節に加わる負荷が変わります。
大きく身体を左右に振るような歩行では、膝関節へ加わる剪断力が増加するかもしれませんし、
足を接地する際に上手に衝撃を緩衝する動きが獲得できていなければ膝関節に加わる圧縮応力が増加するかもしれません。
これらは、術後に行うリハビリテーションの中で、
理学療法士の指導のもと、正しく改善することが予防の近道となります。
リハビリテーションの重要性はこういったところにもあるのです。
これも杖などの補装具やサポーターなどの有効活用が重要となります。
→変形性膝関節症にサポーターは効果がある?選び方のコツは?
→「杖」ってどんな種類がある?日常生活やリハビリ、介護場面で活躍!
人工膝関節が寿命を迎えたらどうするの?
ここまで、人工関節には耐用年数があり、
様々な要因で寿命が上下することがあることを解説しました。
では、人工関節に寿命がくるとどうなるのでしょう!?
人工関節に寿命がきた場合には、
関節にLoosing(緩み)が生じます。
これ自体は痛みや関節の不安定さで本人が気がつくことがありますが、
初期ではまず自覚症状はありません。
徐々に歩行が困難なことになれば、
再置換術(revision)と言って、一度人工関節を除去して、新たな人工関節を挿入する手術を行います。
侵襲が再び加わることは、関節可動域制限や、筋力低下なども引き起こしやすくなるので、
可能な限り避けたいところです。
人工膝関節の再置換はどれくらい行われている?
では実際に人工関節の再置換を行う人はどれくらいいるのでしょうか!?
実は再置換を行う人はあまり多くはないのです。
それはなぜかというと、そもそも人工関節の耐用年数を考慮して、
高齢の方が適応となっているからです。
例えば、75歳の人が行う場合、
20年が耐用年数と仮定すると、95歳まで持つことになり多くの場合は命が尽きるまで問題はありません。
65歳の人の場合でも、
85歳でLoosingが生じて入れ替えとなった場合でも、
車椅子での生活という選択肢がある中で再置換を選択しない場合もあるからです。
ただ、何らかの原因で比較的若い時期に人工関節置換術を行なった場合には、
再置換も覚悟する必要があるでしょう。
まとめ
今回は、人工膝関節の耐用年数やその寿命を左右する因子などを解説しました。
何だかネガティブな記載になっているかもしれませんが、決してたくさん動くなと言っているわけではありません。
人工関節の寿命を恐れるあまり動くこと自体をやめてしまったら何のための手術か分からないですもんね。
実際にゲートボールやグランドゴルフなどの運動を行なっている人も多くいますし、
激しい動きかどうかは医師や理学療法士などの専門家に相談し、
正しく人工関節と付き合っていくことが重要ですね。
人工膝関節に対するリハビリテーションはこちら
→【変形性膝関節症】TKA術後のリハビリテーションって何をするの?
→変形性膝関節症に対する筋力トレーニングとは?自宅で出来る方法は?
→「lateral thrust(ラテラルスラスト)」とは?その病態やリハビリでの対策は?
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