人工股関節全置換術(THA)は後方アプローチと前方アプローチどちらが良いの?

    
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人工股関節全置換(Total Hip Arthroplasty:THA)には、

手術の方法に応じて前方から人工関節を入れる「前方アプローチ」と、

後方から人工関節を入れる「後方アプローチ」があります。

 

こちら二つの方法にはどのような違いがあり、どちらが良いのでしょうか?

 

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人工股関節全置換(THA)は、変形性股関節症や突発性大腿骨頭壊死症などに対する標準的な手術療法です。

その最たる手術効果は歩行をはじめとした荷重時の疼痛の軽減です。

これによって日常生活動作はもとより、生活の質までもがグッと改善します。

 

さて、少し専門的な話になりますが、そんなTHAの中でも、手術の方法によって効果やリスクが異なることをご存知ですか?

 

人工股関節全置換(THA)には、手術の方法に応じて前方から人工関節を入れる「前方アプローチ」と、後方から人工関節を入れる「後方アプローチ」があります。

これらの選択は医師によって重症度や年齢、生活スタイル、術者の技術など様々な理由を加味して決定されます。

 

一体どちらの方が良い方法なのでしょうか?

(厳密には前方だけでなく前側方アプローチなども存在しますが、これは侵入方法としては前方アプローチに近いため前方と同義として記述します)

前方アプローチのメリット、デメリットとは?

前方アプローチのメリットとは?

筋肉を切らなくて済む

人工関節を挿入する際、

股関節まで深部に到達するためには筋肉を切らなければならないイメージがあるかと思います。

 

しかしながら、前方アプローチでは直接的に筋の切開はせず(一部する場合もある)、

筋膜を分けて侵入するなどの方法をとります。

 

これによるメリットは、手術侵襲が少ないことにより、

術後の疼痛が少なくリハビリテーションを円滑に進められることや、

歩行などの際に筋力が発揮しやすいことによって回復が早くなるという点です。

 

特に、歩行の際の推進力を生む出したり、力強く踏ん張るような動作を行う際に必要な股関節伸展筋群(お尻の筋肉)は無傷なので、術後の回復は良好です。

 

 

脱臼しにくい

THAのリスクとして“脱臼”というのは常につきまとう問題です。

しかしながら前方アプローチの場合、後方アプローチに比して脱臼の頻度は少ないと言われています。

 

前方アプローチの脱臼率:0.4%以下
後方アプローチの脱臼率:3~6.5% (Clin. Orthop. 393,168-180,2001)

 

これには理由があり、前方アプローチの場合の脱臼肢位(禁忌肢位)は、

伸展・内転・外旋方向の運動となります。

 

これは、過剰に腰を反らせ、かつ捻るような運動に相当するため、

スポーツなどおこなっていない限り、日常生活では生じにくい肢位であることが理由の一つです。

 

人工股関節全置換術後の脱臼の原因や時期は?

 

 

前方アプローチのデメリットとは?

術野が狭く術者の技術が必要

前述したようなメリットがあるなら全員前方でやれば良いんじゃないの?…

と思われるもしれませんが、必ずしもそうはいきません。

 

前方アプローチの場合、

手術の際に展開する術野が狭くなるため、正確な手技を行うためには術者の技術が必要となります。

 

重度の変形や再置換術などの場合には適していません。

 

 

後方アプローチについて

後方アプローチのメリットとは?

術野が広く、幅広い適応がある

後方アプローチの場合、

展開する範囲が広いため術野が広く取れ、正確な手術が可能となります。

特に重度の変形を伴う場合や、再置換術などの場合には後方アプローチが適応となります。

 

 

後方アプローチのデメリットとは?

脱臼リスクがある

もちろん前方アプローチにも脱臼リスクがありますが、

後方アプローチの方が脱臼リスクが高いと言われています。

 

この原因として、後方アプローチの場合、人工関節を挿入する際に股関節の後面にある深層外旋6筋と呼ばれる筋を切離しなければなりません(もちろん術後には縫合しますが)。

本来はこの筋によって股関節後方への脱臼が制動されているので、この筋が脆弱な内は脱臼しやすい状態と言えるのです。

 

また、筋を切開するということは術後の疼痛や、筋力発揮にも影響を与えるため、

前方に比し日常生活動作の獲得がやや遅れることもあります。

 

 

まとめ

人工股関節全置換術(THA)は後方アプローチと前方アプローチどちらが良いのかについて、

それぞれのメリット・デメリットなどについて記述しました。

 

それぞれの方法にメリット・デメリットが存在し、

また必ずしもどちら良いというわけではなく、

適応と非適応を見極めながらどちらが良いかを判断していくことが重要となります。

 

そのため、

「なぜ私は脱臼しやすい後方なの??…」

と不審に思うのではなく、そこには必ず理由があるはずですので執刀医に確認することも重要です。

 

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