人工股関節全置換術後の脱臼の原因や時期は?

    
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人工股関節全置換術(THA)は、変形性股関節症などに対して行われる手術療法です。

関節変形の矯正や除痛効果を得られ、日本でも多くの方が施行されています。

 

しかしながら、人工股関節全置換術後にはこの手術特有のリスクが伴います。

それは、【脱臼】です!

 

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人工股関節全置換術は、変形性股関節症によって変性・磨耗した関節を人工物へ置換する手術です。

除痛や関節変形の矯正などの効果から、歩行などの日常生活動作の再獲得が望めます。

人工股関節全置換術に関する詳しい記事はこちらを参照ください!
変形性股関節症の手術療法とは?どんな種類や方法がある?

 

 

人工股関節全置換術には、この手術特有のリスクが伴います。

それは、【脱臼】です。

人工股関節全置換術には、大きく分けて

・前方アプローチ
・後方アプローチ

の二つの方法があります。

 

 

それぞれのアプローチごとに、股関節が脱臼しやすい方向があるのです。

それを「禁忌肢位」と呼び、術後のリハビリテーションなどでも脱臼管理に関する指導を受けるのです。

それぞれのアプローチごとの禁忌肢位は、

前方アプローチ:屈曲・内転・内旋
後方アプローチ:伸展・内転・外旋

です。

 

 

そこで今回は、人工股関節全置換術後の脱臼の原因や脱臼しやすい時期、予防方法などを解説します。

変形性股関節症に関する詳しい記事はこちら
変形性股関節症って治るの?原因や症状、治療方法とは?

脱臼の頻度はどれくらい?

実際にどれくらいの人が脱臼しているかというと、

その頻度は、

初回手術後:2-3%
再置換術後:4-6%

程度であると言われています。

つまり、一度脱臼してしまうと再脱臼するリスクも高まるということですね。

ちなみに脱臼した場合は、一度、人工関節を取り出した後に「再置換術」を行うのが一般的です。

 

 

 

脱臼の原因は?

通常の股関節というのは、

骨盤側の「臼蓋」に対して、大腿骨側の「大腿骨頭」がはまり込むようにして入り込み、周囲を靭帯や筋肉によって補強されているために、牽引力などに対しても脱臼することなく安定しています。

 

人工股関節へ置換した場合、

骨盤側の「臼蓋」へ人工の受け皿を装着し、大腿骨側の「大腿骨頭」をステムと呼ばれる金属へ置換します。
これを設置する際には、周囲の靭帯や筋の切除に加えて、一度脱臼方向へ操作しています。

 

このため、筋や靭帯の強度が回復しないうちに、特定の方向へ動かすことで脱臼してしまうのです。
手術手技や、もともと筋力が弱いなどの要因なども、脱臼しやすい・しにくいに関与してきます。

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脱臼しやすい時期は?

術後の脱臼が生じやすい時期としては、

1ヶ月以内が70%(Williams)
3ヶ月以内は59%(Woo & Morrey)
4ヶ月以内が89%(Lweinnek)

と報告されています。

 

人によって様々な報告がありますが、ほとんどの脱臼は「術後3ヶ月以内に起こる」とされています。

これは、術後経過とともに切開された筋や軟部組織の治癒が進み、筋緊張が高まり関節周囲に偽膜が形成されるためであると言われています。

つまり、筋の張力などを早期より高めていくことが一つの予防につながります。

 

人工股関節置換術や変形性股関節症に関するリハビリテーションの記事はこちら!
変形性股関節症や人工股関節全置換術後のリハビリテーションとは?
変形性股関節症におけるリハビリテーションの評価項目は?

 

 

 

手術手技はどんな方法?

人工股関節全置換術の手術手技には、大きく分けて

・前方アプローチ
・後方アプローチ

があります。

医師によって様々な考えはあるようですが、日本で行なわれているのは後方アプローチ」が主流です。

さらに、その手術手技の違いからも脱臼例は後方アプローチ患者に多発しています。

 

後方アプローチ

後方アプローチとは、文字通り臀部の後方から切開する方法です。

手順としては、皮膚を切開したのち、大臀筋、梨状筋や深層外旋6筋をも切開します。

後方へ一度脱臼させたのちに、骨頭の切除やカップやステムの設置を行います。

 

前方アプローチ

前方アプローチとは、股関節の前方から切開する方法です。

中臀筋と大腿筋膜張筋の筋間を切開します。

このように直接的な筋の切開がなく、軟部組織に対する侵襲も少ないのです。

 

人工股関節全置換術のリスクに関する記事はこちら
人工股関節全置換術(THA)のリスクとは?脱臼・血栓症・感染に注意!
人工股関節置換術後(THA)の脚延長に伴う神経障害発生との関係

 

 

 

禁忌肢位はどんな姿勢?

実際にどのような肢位をとることで脱臼のリスクが高まるのでしょうか?

禁忌肢位は以下の通りです。

 

【前方アプローチ:屈曲・内転・内旋

屈曲:足を腹側に曲げる
内転:足を閉じる
内旋:足を内側へ回す

実際には、単一の方向での脱臼よりも、これらの複合運動におけるリスクが高いと言われています。

「横座り」「女の子座り(トンビ座り)」をイメージしてもらうと分かり易いと思います。

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【後方アプローチ:伸展・内転・外旋

屈曲:足を背中側に曲げる
内転:足を閉じる
外旋:足を外側へ回す

 

 

 

脱臼の予防方法はある?

脱臼しないための予防方法は、

・筋力を回復させること
・禁忌肢位を理解すること

これに尽きると思います。

「横座り」「トンビ座り」などの特定の姿勢に加えて、

・座って靴や靴下を履く
・床から立ち上がる
・転倒しない

ことなども重要な要素です。

術後早期より、理学療法士などの専門家の指導の元、脱臼指導もきちんと行われるので、正しく理解し、習得できるようにしましょう。

脱臼の予防や管理に関して、より具体的で詳しい記事はこちらを参照下さい!
人工股関節全置換術[THA]|脱臼のメカニズムと予防方法

 

 

まとめ

今回は、人工股関節全置換術後の脱臼の原因や脱臼しやすい時期、予防方法などを解説しました。

「脱臼が恐くて動けません」

これでは、何のために手術をしたのか分かりませんよね。

正しい理解と知識を得ることで自信を持って管理できるようにしていきましょう!


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