脊髄損傷のリハビリテーション「関節可動域訓練」の目的や方法は?
脊髄損傷は、
損傷レベルに応じた運動麻痺や感覚障害が出現します。
リハビリテーションにおいては、
日常生活動作の再獲得に向けて、様々なプログラムを立案します。
その中でも、身体の柔軟性を維持・向上する
「関節可動域訓練」は時期を問わず非常に重要な方法となります。
気になる脊髄損傷の再生医療はこちら
→脊髄損傷の再生医療とは?
脊髄損傷とは、
“脊柱の中を走行する脊髄の損傷”です。
受傷機転の多くは、
交通事故や転倒・転落、スポーツなどの強い外力によって生じます。
詳しくはこちら
→脊髄損傷とは?原因や好発年齢は?
損傷の程度やレベルによってですが、
運動麻痺や感覚障害などから、様々な後遺症を呈し、
日常生活動作に障害をきたします。
→脊髄損傷における完全麻痺と不全麻痺の判定方法は?
→脊髄損傷における主要残存筋と、その機能とは?
このような機能・能力障害に対しては、
「リハビリテーション」が適応となります。
寝返りや起居動作や座位、機能によっては立位や歩行に至るまで、
日常生活における基本動作の回復を目指します。
理学療法では、上記のような動作能力の回復を目的に
様々な訓練プログラムを立案しますが、
受傷早期から一生に渡るまで、このような動作能力を維持・向上させるために必要な訓練は、
【関節可動域訓練】です。
今回は、脊髄損傷のリハビリテーション「関節可動域訓練」の目的や方法について解説します。
→脊髄損傷のリハビリテーション「プッシュアップ」に必要な筋とその機能とは?
関節可動域訓練が必要な理由や目的は?
脊髄損傷の早期には、
「弛緩期」と呼ばれる期間が存在し、基本的に筋肉はグニャグニャな状態となります。
おおよそ受傷より1週から6週が経過すると、
「痙性期」と呼ばれる時期に移行し、意図せずに筋肉が緊張してしまう状態となります。
痙性は強まれば強まるほどに、関節運動が制限される、もしくは一様のパターンに限定され、
徐々に関節は「拘縮」と呼ばれる障害をきたします。
「拘縮」はいわゆる関節が固まってしまった状態で、周囲の筋肉のみならず、軟部組織も極めて柔軟性を失う状態となるのです。
リハビリテーションの目的が基本動作の改善にあるとすれば、
損傷レベル以下の運動麻痺を行った脊髄損傷者において重要となるのは、
身体の柔軟性です。
以下の表をご覧ください。
※NPO法人日本せきずい基金/2006年刊 第8章 受傷後の二次障害より転載
各関節が拘縮をきたすことで制限を受ける動作があります。
当然ここに記載されたもののみならず、起居動作や立位・歩行などにおいても拘縮阻害因子となります。
すべての関節に拘縮がなく、自由度が高いことが望ましいですが、
とりわけ脊髄損傷では、
肩関節や脊柱、股関節などの大関節の関節可動域の維持・向上がポイントとなります。
このような拘縮を予防するために、
早期から障害に渡るまで、関節可動域訓練は欠かせない方法なのです。
関節可動域訓練の実際
実際に行われる関節可動域訓練とはどのようなものなのでしょうか!?
関節可動域訓練は、受傷後早期より開始されます。
ただし、受傷早期は、骨折部の安定や全身状態の管理が優先されます。
頸髄損傷の場合は、頚椎カラーが装着され、過剰な運動は症状の悪化を招きます。
そのため、この時期には、
脊柱や頸部の運動を避け、中枢部を安定させた状態で末梢部を操作することが原則となります。
特に頸髄損傷後の肩関節運動は1〜2週目では、屈曲・外転は90°までとし、伸展や回旋運動は注意深く行う必要があります。
もう一つ重要なことは、
「異所性骨化」のリスクに配慮する必要があります。
感覚の低下している脊髄損傷者に対して、暴力的かつ、粗雑な扱いはかえって症状を悪化させることにつながるのです。
異所性骨化の記事はこちらを参照ください!
→脊髄損傷の合併症とは?褥瘡や異所性骨化に注意!
急性期を過ぎたら、脊柱も含めて簡単な運動からより複雑な運動へと移行します。
一肢に10分前後、そして全可動域に渡り愛護的に動かします。
中枢の不安定性は、痙性を誘発し、反射的な収縮などを帰って強めてしまうことがあるので、熟練した技術も必要です。
このような他動運動のみならず、自己である程度、起きる・座るなどの基本動作が可能となれば、ストレッチの方法などを指導して、積極的な自己管理へと進めていくことが重要です。
脊髄損傷に関する記事はこちらもどうぞ
→脊髄損傷における主要残存筋と、その機能とは?
→脊髄損傷におけるリハビリテーションに必要な評価項目とは?ASIAって?
まとめ
脊髄損傷のリハビリテーション「関節可動域訓練」の目的や方法について解説しました。
脊髄損傷の動作獲得に向けての重要な点は、健常者と同様の可動域を求めるだけでなく、
過可動域(hyper mobility)を獲得する必要性もあるということです。
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