TKAのインプラント「Mobile Bearing型」ってどんな特徴がある?
人工膝関節全置換術(TKA)は、
変形性膝関節症に対する標準的な手術療法です。
一概にTKAといっても、患者背景や、重症度によって使用されるインプラントも一様ではありません。
人工膝関節全置換術(TKA)とは、
変形性膝関節症や関節リウマチなどの疾患によって、
磨耗し変性した膝関節を人工物に置換する手術療法です。
TKAの主たる効果は、
荷重時などに生じていた疼痛の除去です。
多くは、歩行をはじめとする日常生活動作の再獲得が可能となり、
生活の質(QOL)も改善することが見込まれます。
しかしながら、必ずしもすべての患者に一様の改善が得られるわけではなく、
患者背景や重症度によって様々です。
そして、歩行能力のみならず、
術後の関節可動域や、筋力などの機能、階段昇降や軽い走行などの能力の是非を左右するものの一つに、
TKAのインプラントの違いがあります。
インプラントとは、
埋め込まれる人工関節の機種のことです。
インプラントは、様々な症例に適応できるように改良が重ねられ、多くのデザインが開発されています。
今回は、その中の一つTKAのインプラント「Mobile Bearing型」ってどんな特徴があるかについて解説します。
変形性膝関節症の手術(TKA)に関する記事はこちら
→変形性膝関節症の手術療法「TKA」とは?他にも手術の種類があるの?
→UKAってどんな手術?TKAとは違うの?そのメリットは?
TKAのインプラントってどんな種類がある?
そもそもTKAのインプラントの種類はどれくらいあるのでしょうか!?
(ここでいう種類は機種の名称ではなく、デザインに関するもの)
もっとも代表的なタイプは、
・PS型(Posterior Stabilized)
・CR型(Cruciate Retaining)
でしょう。国内でのシェアも大半を占めます。
PS型は、前十字靭帯と後十字靭帯を切除し、post-cam機構によって人工的なrollbackを誘発するデザインです。
関節可動域が良好である反面、軽度屈曲位での不安定さなどの特徴があります。
CR型は、後十字靭帯を温存し、より生体に近い関節運動が可能です。
PS型よりも非荷重下での安定性に優れるものの、必ずしも適切なrollbackが誘発されていないなどの問題もあり、適応の範囲や手術手技の技量が必要とされます。
PS型・CR型の詳しい解説はこちら
→全人工膝関節置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
最近では、PSやCRの欠点を改良したデザインとして
・BCR型(Bi-Cruciate Retaining)
・Medial pivot型
と呼ばれる機種も国内にて使用されています。
BCR型は、前十字靭帯と後十字靭帯のいずれもを温存するため、固有受容性の位置覚に優れ、
より生体に近い関節運動や安定性が再現できます。
Medial pivot型は、前十字靭帯と後十字靭帯の療法を切除するものの、Ball-in-socketと呼ばれる適合性の高い関節面を持つため、荷重下での安定性に優れる特徴を持ちます。
BCR型・Medial pivot型の詳しい解説はこちら
→TKAのインプラント「BCR型」や「Medial Pivot型」とは?
「Mobile Bearing型」ってどんなインプラント?
TKAのインプラントには様々な種類があり、
それぞれ適応や特徴があるのが分かりました。
では、「Mobile Bearing型」はどのようなインプラントなのでしょうか!?
「Mobile Bearing型」は、
脛骨のコンポートネントと、インサートの間で回旋(加えて前後運動も起こる機種もあり)が生じるタイプです。
通常は、大腿骨コンポーネントとインサートの間で回旋が生じますが、
Mobile Bearing型では、この部分は高い適合性を有し、Slidingのみを許容します。
このような構造によって、大腿骨コンポーネントとインサートの間に生じる摩擦を低減し、
長期的な耐久性を向上させたデザインと言えます。
さらに、深屈曲における脛骨の内旋が円滑に行われることから術後の可動域が良好な例が多いとされる。
その一方で、Mobile Bearing型が他の機種よりも優れるとの臨床報告は実証されておらず、
生体における脛骨の内旋運動が必ずしも正確に再現されていないとの指摘もあります。
歩行立脚期におけるmobile型の人工関節の脛骨回旋角度
※極める変形性膝関節症の理学療法より引用
まとめ
今回は、TKAのインプラント「Mobile Bearing型」ってどんな特徴があるかについて解説しました。
正常の膝関節と比較し、回旋軸の位置がより前額面上にて中央に近いことや、
矢状面においてもやや下方に位置していることからも、やや複雑な運動を呈していることがイメージできます。
運動を指導したり、関節可動域改善を促す立場にある場合、その運動学を理解し、イメージすることが重要な要素となるかもしれません。
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