TKAのインプラント「BCS型」の特徴とは?
医療技術の目覚ましい進歩の中でも、
とりわけ人工関節においては今なお進化を遂げている分野です。
今回は、TKAのインプラントのタイプである
「BCS型」の特徴について記述します。
人工膝関節全置換術(TKA)は、
変形性膝関節症や関節リウマチによる膝関節の変形や荷重痛の改善を期待して行われる
標準的な手術療法です。
本邦においては、
潜在患者を含めると3000万人と言われる変形性膝関節症に対して、
毎年9万例とも言われる手術が行われています。
医療の進歩の中でも多くの改良がなされ、
目覚ましい業績がある中でも、
TKA手術を受けた患者の中でも20%は満足な結果を得られていないとも言われています。
その最たる原因の一つに、
生理的な関節運動を呈していないことが挙げられており、
今なお、その追求のために多くの臨床・研究が行われています。
一概にTKAといっても、
使用されるインプラントにも種類があり、それぞれ適応やメリット・デメリットが存在します。
例えば、
従来から最も使用されているインプラントとして、
前十字靭帯と後十字靭帯を切除してPost & Cam機構で制御する
「PS型(Posterior Stabirized TKA)」や、
→全人工膝関節置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
近年では、前十字靭帯と後十字靭帯を共に温存する「BCR型(Bi-Cruciate Retaining TKA)」や、
インプラント構造で安定性を得る「Medial Pivot型」などが開発されています。
→TKAのインプラント「BCR型」や「Medial Pivot型」とは?
最近ではさらに、生理的な関節動態を再現するTKAの一つとして、
「BCS型(Bi-Cruciate Stabilized TKA)」が使用されています。
今回は、TKAのインプラントのタイプである「BCS型」の特徴について記述します。
「BCS型」TKAとは?
「BCS型」TKAとは、
Bi-Cruciate Stabilized TKAの略です。
(Bi-Cruciate=両側の十字、すなわち前十字靭帯と後十字靭帯を指します)
BCS型の場合、
前十字靭帯と後十字靭帯のいずれの靭帯も切除しますが、
インプラント形状によって生理的な関節動態を再現します。
代表的な「BCS型」TKAには、
Smith & Nephew社による”JOURNEY Ⅱ”があります。
「BCS型」TKAの特徴は?
「BCS型」TKAの最大の特徴は、
anterior cam-postにより前方安定性を獲得させ,
posterior stabilizerにより後方安定性を獲得し、
ACLとPCLの両者の機能を代償することにあります。
人工膝関節 (人工臓器 41 巻 3 号 2012 年)より引用
この機構によって、
paradoxical motionと呼ばれる、軽度屈曲位での大腿骨の前方への滑りが抑制されます。
また、大腿骨側が脛骨側よりも前方へ位置する(正常の関節のように)ことで、
膝蓋骨への圧縮力が加わり大腿四頭筋の筋力が発揮しやすいという利点もあるそうです。
さらに、
大腿骨側のデザイン:内側顆が外側顆よりも大きい
脛骨側のデザイン:内側顆がconcave、外側顆がconvex
のデザインにより、
膝の屈曲に伴うmedial pivot motion(大腿骨に対して脛骨が内旋する)と、
roll backが誘導され、より生理的な関節動態を再現しているのです。
もちろんそれでも、
健常膝と同様の関節動態を可能にしているわけではない(回旋運動等の違い)ですが、
前十字靭帯と後十字靭帯という膝関節運動に欠かせない靭帯を切除している中で、
非常に近い運動であることが報告されています。
まとめ
今回は、TKAのインプラントのタイプである「BCS型」の特徴について記述しました。
もちろん年齢や変形の程度、十字靭帯の機能の可否などによって適応も左右され、
患者がインプラントを選ぶことは通常ありません。
ただ、理学療法士など術後の膝関節運動を担う者にとって必要な知識であるとともに、
更なる機能の改善などの発展に期待します。
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