人工股関節全置換術(THA)後のリハビリテーション「腹臥位」が有効!?
「変形性股関節症」に対する手術療法として、
“人工股関節全置換術(以下:THA)”は最も代表的な方法です。
THA後のリハビリテーションにおいて、
術前の、またはそれ以上の関節可動域やの獲得が要求され、
そのための手段の一つとして“腹臥位”での運動があります。
「変形性股関節症」は、
大腿骨頭の表面の関節軟骨が磨り減ったり、
先天的な要因として骨盤の臼蓋の形成不全を有していることによる関節の異常などによって、
荷重時の疼痛や、変形などが生じる疾患です。
原因が分からない一次性と、
臼蓋形成不全や先天性股関節脱臼などの後遺症として生じる二次性のものとに分類されます。
詳しい原因や症状はこちら
→変形性股関節症って治るの?原因や症状、治療方法とは?
“THA”は、「変形性股関節症」に対する、
最も標準的な手術療法です。
変性した関節を人工物に置換することで、
除痛を図り、変形の矯正などを図ることから、
歩行を始めとした日常生活動作の改善が見込まれます。
術後は、リハビリテーションによって機能改善を目指すのですが、
特に伸展方向への関節可動域の改善に苦渋することがあります。
今回は、それらを解消するための治療手段の一つとして「腹臥位」を解説します。
術後に伸展可動域制限が生じる原因は?
THAの術後に伸展可動域制限が生じる原因は複数挙げられます。
【術前からの要因】
まず一つ目に、
【術前からの要因】があります。
変形性股関節症を有している場合、
大腿骨頭を覆う臼蓋の被覆が不十分であるため、
多くの患者が骨盤前傾位を取ることで、大腿骨頭の被覆率を高めます。
この姿勢が慢性化することで、
股関節の前面に位置する腸腰筋の短縮が生じ、
股関節の伸展可動域制限が生じるのです。
この場合、手術によって筋の長さに対しては手を加えることがないため、
術前からの要因がそのまま残存することになります。
【脚延長の要因】
二つ目の要因として、
手術操作によって【脚延長の要因】が考えられます。
人工関節を挿入することによって、
元々狭くなっていた関節の間隙が拡大し、
脚が延長することがあります。
ただし、周囲の筋が延長することはないので、
相対的に前面の筋に引っ張られることによって、股関節が屈曲方向へ曲がってしまうのです。
脚延長による合併症にも注意
→人工股関節置換術後(THA)の脚延長に伴う神経障害発生との関係
【その他の要因】
術後の下肢は、疼痛や腫脹などによって、
股関節周囲筋の筋出力が低下します。
重たくなった脚を動かすためには、
少しでもレバーアームを短くするために、
股関節を屈曲して脚を身体の近くに位置させようとします。
このような姿勢が慢性化することで、
股関節を伸展する機会が減少し、徐々に股関節の伸展制限が形成されます。
股関節伸展可動域制限に対する「腹臥位」の効果は?
「腹臥位」とは、
いわゆる“うつ伏せ”のことです。
「腹臥位」と取ることによって、
重力による影響で体幹の前面と大腿部の前面は床面に接します。
このような状態で力を抜いてリラックスしたり、
可能であれば骨盤を左右に楽に揺するなどすることによって股関節は伸展位をとりやすくなります。
「背臥位」では、
股関節前面筋の伸張痛などによって我慢しながら、
力づくで伸ばしたり、または伸ばされたりしていたものが、
「腹臥位」を取ることで比較的“楽”に行うことができるのです。
→変形性股関節症や人工股関節全置換術後のリハビリテーションとは?
まとめ
今回は、THA術後の股関節伸展可動域制限に対する「腹臥位」の効果を解説しました。
重力の影響で力を抜きながら“楽”に行うことが出来ます。
可能であれば、患者自身の自主トレとして行うことが望ましいですが、
脱臼などの管理に十分に配慮しなければならず、
始めは理学療法士などの専門家の指導のもと行うのが望ましいです。
変形性股関節症に見られる異常歩行はこちら
→「トレンデレンブルグ歩行」と「デュシャンヌ歩行」とは?その原因は?
→「墜下性跛行」ってどんな歩行?その原因や対策は?
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