人工股関節全置換術(THA)後でも車の運転は可能?
人工股関節全置換術(以下:THA)は、
変形性股関節に対する標準的な手術療法として知られています。
どのような疾患においても気になることですが、
とりわけ“脱臼”というリスクを伴うTHA後に車の運転は可能なのでしょうか!?
人工股関節全置換術(THA)は、
股関節の磨耗や変性を主体とする“変形性股関節症”に対する
標準的な手術療法です。
主に除痛に対して効果が高く、
術後のリハビリテーションの進行によっては、
歩行や階段昇降をはじめとした日常生活の再獲得が可能となります。
変形性股関節症に対する基礎知識はこちら
→変形性股関節症って治るの?原因や症状、治療方法とは?
→変形性股関節症の手術療法とは?どんな種類や方法がある?
ただし、THAは“脱臼リスク”を常に有しているという宿命があり、
いくつかの動作において注意を要することがあります。
これは、手術における人工関節の侵入方向によって決まるものであり、
個人によってもそのリスクの大小には違いがあります。
THA実施患者より、
「車の運転をしても脱臼しないのでしょうか?」
といった質問が多く聞かれます。
そこで今回は、運転における脱臼リスクに関して解説します。
THAにおける脱臼リスクとは?
THA実施患者における運転による脱臼リスクの解説の前に、
どのような動きをすることで脱臼するのかについておさらいします。
THA後の脱臼は、人工関節を挿入する侵入方法によって異なります。
股関節の後方から挿入する後方侵入の場合には、
股関節の屈曲・内転・内旋が禁忌肢位となります。
以下のような動作には注意が必要です。
・横坐り
・とんび座り
・端座位にて内股にして身体をかがめる etc…
股関節の前方から挿入する前方侵入の場合には、
股関節の伸展・内転・外旋が禁忌肢位となります。
以下のような動作には注意が必要です。
・身体を大きく反らす
・足を後方へ伸ばす etc…
股関節が特定の方向へ動いた場合に脱臼するため、
具体的な動作は挙げたらキリがないですが、
反対にそのような肢位にならなければ全く問題ないわけです。
“脱臼”に関してはこちらの記事を参考にしてください!
→人工股関節全置換術後の脱臼の原因や時期は?
THA患者も車の運転は出来る?
結論から言うと“可能”です。
ただし以下の点に注意が必要です。
先に解説したように、
たとえどのような動作をしようとしたとしても、
禁忌肢位を取らなければ脱臼のリスクは低いわけです。
特に車の運転に際して注意が必要なポイントは、
・車への乗り降り
・バックの際の振り向き
などがあると思います。
単純に運転だけを切り取れば、
動かしているのは足首と膝であるため大きなリスクはないでしょう。
ただし、椅子自体があまりに低く、座っているだけで禁忌肢位(後方侵入の場合)となる場合は座布団で高くするなどの対策は必要でしょうが…
車への乗り降りに関しては、
乗り込む場合には、立位のままで足を入れ込むのではなく、
まずは座席に腰掛けることが重要です。
(立位のままでは片足立ちとなったり、バランスを崩すこともあるからです)
ドアの縁などを支えにしながら、必ず腰掛けて、身体の向きと大腿の向きを一直線にしながら足を入れ込みましょう。
降りる場合には反対に、足を外に出してからゆっくり前傾しながら立ち上がることが重要です。
後方侵入の場合には、深く前傾しすぎないこと、前方侵入の場合には、立った後に身体を反りすぎないことが重要です。
バックの際の振り向きに関しては、
基本的に首だけの振り向きであれば一切の問題はありません。
骨盤ごと振り向くような大きな振り向きの場合には、
股関節に捻じれが生じるため、
ミラーやバックモニターなどの代償手段が必要となります。
まとめ
今回は、人工股関節全置換術(THA)後の車の運転の可否を解説しました。
結論から言うと、注意点を守れば基本的に運転は可能と考えられます。
ただし、必ず医師または担当の理学療法士へ意見を求め、
必要によっては共に練習する機会を持ちましょう。
個々によって脱臼リスクは異なりますし、高齢者の運転自体が最近では危険であると取りざたされている背景もあります。
自分が事故に遭うのは自己責任としても、他者を巻き込んでしまうことのないよう、本当に運転が必要なのかなども考えなければならない時代となっています。
“変形性股関節症”に対するリハビリテーションはこちら
→【変形性膝関節症】TKA術後のリハビリテーションって何をするの?
→変形性膝関節症に対する筋力トレーニングとは?自宅で出来る方法は?
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