TKAとUKAにおける機能的な差異(違い)はある? 〜バランスの観点から〜
変形性膝関節症に対する手術療法として、
人工膝関節全置換術(TKA:Total Knee Arthroplasty)は日本でも多く行われています。
膝関節の内側または外側ともに、関節軟骨の変性(すり減り)部分を人工物に置換する手術であり、
変形性膝関節症の中でも重度の人にも適応できます。
一方で近年増加傾向にあるのが、
人工膝関節単顆置換術 (UKA:Unicompartmental Knee Arthroplasty )であり、
関節軟骨の変性(すり減り)が生じている内側または外側のいずれかを人工物に置換する手術です。
UKAはTKAよりも手術侵襲が少ないため、
疼痛や腫脹が少なく回復が早いことで徐々に普及している手術療法です。
今回は文献を通じて、これらの機能的な差異(違い)について紹介します。
紹介する論文
Proprioception after bicruciate-retaining total knee arthroplasty is comparable to unicompartmental knee arthroplasty
Florian Baumann1 · Özkan Bahadin2 · Werner Krutsch1 · Johannes Zellner1 · Michael Nerlich1 · Peter Angele1,2 · Carsten Oliver Tibesku3
Received: 15 October 2015 / Accepted: 29 March 2016
© European Society of Sports Traumatology, Knee Surgery, Arthroscopy (ESSKA) 2016
2016年に掲載された論文です。
インプラントの異なるTKAまたはUKAを対象として、
前十字・後十字靭帯に存在する固有受容器を温存することの差異をバランス能力の観点から比較している論文です。
→全人工膝関節置換術(TKA)のインプラントの種類は?PS型とCR型の違いは?
→TKAのインプラント「BCR型」や「Medial Pivot型」とは?
目的
Rising expectations in functional performance of total knee joints are inciting further improvement of knee arthroplasty implants. From a patient-centred view, bicruciate-retaining models provide a more natural feeling knee. However, there is no evidence of functional advantage for these implants. The aim of this study was to evaluate balance ability as a measure of proprioception in patients with a bicruciate-retaining total knee arthroplasty.
TKAにおける機能的なパフォーマンスへの期待は、インプラントのさらなる改善を促進している。
患者視点からの見解では、両十字靭帯を温存するインプラントはより自然な膝に感じている。
ただし、これらの機能上の利点を示す見解はありません。
本研究の目的は、両十字靭帯を温存する人工膝関節置換術の患者の固有受容器の尺度としてバランス能力を評価することである。
方法
A prospective, controlled trial was conducted to compare balance ability in 60 patients after arthroplasty of the knee for osteoarthritis. We compared patients with a bicruciate-retaining knee arthroplasty (BCR group) to a control group of patients with a medial unicompartmental knee arthroplasty (UKA group) and another control group of patients with a posterior stabilized total knee arthroplasty (PS group). The patient population comprised 30 women (50.0 %) and 30 men in three cohorts of 20 each. The mean age was 62.1 ± 8.0 years (range 43–78). Patients were evaluated preoperatively and 9 months post-opera- tively. The evaluation balance testing—a single-leg stance with eyes closed compared to eyes open. The difference in area of sway between eyes closed and eyes open represents static balance ability after knee arthroplasty.
変形性膝関節症によって人工膝関節置換術後の60人の患者のバランス能力を比較するために前向き研究を実施した。
両十字靭帯を温存するBCR群、両十字靭帯を切除するPS群、UKA群の3群で比較した。
合計の人数は60人(男女30人づつ)でそれぞれ20人づつで構成されている。
平均年齢は、62.1±8.0歳(range 43-78)であり、術前と術後9ヶ月で評価した。
バランス検査は重心動揺計を用いて開眼と閉眼の条件で片脚立ちを行い比較した。
また、それぞれの指標にて開眼と閉眼の差を算出することでも比較を行った。
結果
We recorded a lower difference in the area of sway between eyes closed and eyes open (∆A(ec–eo)) for the BCR group (p = 0.01) and the UKA group (p = 0.04) compared to the PS group.
本研究の結果では、BCR-TKA群とUKA群ではPS-TKA群と比較して (∆A(ec–eo))において、動揺面積が優位に小さかった。
結論
This study found superior static balance abil- ity after preservation of both cruciate ligaments in arthro- plasty of the knee, indicating superior proprioceptive function. Hence, BCR implants could provide improved functional properties. Superior proprioceptive function of bicruciate-retaining implants can be an important factor in implant selection.Level of evidence II.
本研究では、両十字靭帯を温存するBCR-TKA群とUKA群では、PS-TKA群よりも優れた静的バランス能力を持つことが明かとなった。
したがって、BCR-TKAは両十字靭帯を切除することよりも、良い機能特性を提供できます。
これらは、インプラント選択において重要な要素となります。
Level of evidence II.
まとめ
今回紹介した論文は、Proprioception after bicruciate-retaining total knee arthroplasty is comparable to unicompartmental knee arthroplastyです。
両十字靭帯を温存することによる固有受容器の有無が、BCR-TKA、PS-TKA、UKAにおいてバランス評価の観点からどのような差があるかを検討しています。
結果として、両十字靭帯を温存するBCR-TKAは、両十字靭帯を切除するPS-TKAよりも閉眼と開眼における動揺面積の差が少なく、手術侵襲が少ないUKAと同等であることから、固有受容器の存在の重要性を述べています。
また、閉眼における実測値においてもBCR-TKAはPS-TKAよりも動揺が少なく、UKAと同等であることからバランス能力に優れると結論づけています。
バランス能力に優れるという点では確かであるかもしれませんが、バランスという全身の固有受容器や遠隔受容器、神経系の統合の結果として出力される重心動揺から十字靭帯に存在する固有受容器の寄与を述べることに関してはやや疑問も感じます。
また、日本における症例とは比較的年齢が若い点においても本邦とは直接比較することは難しい部分もあるかもしれません。(実際に術後に片脚立位を保持できる患者がどれだけいるでしょうか?)
インプラントのような構造の違いは、何らかの機能やパフォーマンスに影響を及ぼすと考える方が通常であり、このような違いを考慮しながら評価・治療を行なっていくことが重要かと思います。
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