タニケット使用の合併症「クラッシュ症候群」とは?
整形外科や形成外科における手術の際に必要な医療機器である
「タニケット」をご存知ですか!?
手術には必需品となるこの機器にも、注意すべき合併症があります。
「タニケット」とは、
いわゆる“止血帯”のことです。
例えば、人工膝関節置換術(TKA)などの下肢の手術を行う場合、
術野の確保は正確な手術を行うために重要な要素であり、
過度の出血は術野を狭くする要因となります。
タニケットを使用することで、
手術中の出血をほとんどなくすことができ、
結果として術野の確保が容易となります。
しかしながら、血流を途絶えさせるというのは必ずリスクが伴います。
(血流がずっと止まっているので当たり前ですよね)
タニケットペインと呼ばれるものや、
塞栓や不整脈などの問題もありますが、
もう一つ重要な合併症として「クラッシュ症候群」があります。
過去には阪神大震災を機に広く知られるようになりましたが、それでも一般的な認知度は低いはず。
そこで今回は、タニケット使用の合併症である「クラッシュ症候群」について解説します。
そもそもタニケットってどんな道具?
タニケットというのは、
手術の際に、術野などを確保するための“止血帯”です。
血圧計と同じような仕組みであり、
マンシェットで空気圧をかけて圧迫することで止血します。
上肢・下肢の手術にも使用され、
周術期の管理を行う看護師などは必ず知っておく必要があります。
タニケット使用時の注意
タニケットの役割は、
出血を止めることであり、いわゆる阻血状態を維持することなので、
使い方を誤れば様々な有害事象が生じます。
そのため、考え方の違いこそあれど、
上肢の手術では、収縮期血圧プラス50㎜Hg
下肢の手術では、収縮期血圧プラス100㎜Hg
を目安として圧をかけます。
またその持続時間も1時間半から2時間程度が上限であると言われています。
タニケット使用時のリスク
実際にタニケット使用時にはどのようなリスクがあるのでしょうか!?
最もよく生じる症状として、「タニケットペイン」があります。
タニケットペインは、手術創などによって引き起こされる痛みの伝達とは違う繊維の感覚神経が賦活されることによって生じる痛みです。
疼くようなジンジンとする痛みが特徴です。
その他にもタニケット使用後の肺塞栓症などの重篤な合併症があります。
さらに、「クラッシュ症候群」と呼ばれる合併症も知っておく必要があります。
「クラッシュ症候群」とは?
「クラッシュ症候群」とは、
“持続的に身体の組織が圧迫されることで、血流障害を生じ、筋の麻痺を生じるだけでなく、血中のカリウム濃度が上昇し、腎不全や高カリウム血症などの全身障害を引き起こす疾患”です。
別名:挫滅(ざめつ)症候群とも呼ばれ、
倒壊した建物や家具の下敷きになる人が続出した阪神・淡路大震災にて多数の受傷者が出たことで話題になりました。
これは、細胞内のカリウムが圧迫の解除によって血液中に大量に流れ込むことによって生じ、
腎不全だけでなく、心停止を引き起こす可能性もあります。
このような原因となる圧迫は、
タニケット使用などによる圧迫でも生じる危険性があり、
特に時間が長くなればなるほどそのリスクが増します。
クラッシュ症候群の治療方法は、
救急の対応として、点滴による水分補給や乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液などによって血液の濃度を薄めることですが、
最終的には透析などによる血液浄化療法を行うしかないようです。
ただ、タニケット使用による発症は比較的珍しいケースのようなので、
このような疾患があることを知っておくと良いかもしれません。
まとめ
今回は、タニケット使用の合併症である「クラッシュ症候群」について解説しました。
手術には様々な合併症が存在しますが、
直接的な侵襲以外にもこのようなリスクがあるのですね。
その他にも手術にまつわる様々なリスクがあります。
→変形性膝関節症の手術に伴うリスクは?感染や血栓に注意!
→人工股関節置換術のリスクや合併症は?脱臼や血栓に注意!
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